恋は大好き。でも私は、自他ともに認める恋愛下手である。恋の駆け引きが、まったくできないのだ。そのくせ、世の中で、もっとも駆け引きの必要な男を好きになってしまう。
駆け引きの必要な男…それは、美形で、もてる男である。美形の男は、女からちやほやされることに慣れている。そんな男こそ、じらして、じらして、じらさなくちゃ、ふりむいてくれない。なのに私は、じらすということができない。
素直に感情を表し、その末に、失恋してしまうのだ。
ある時、いかにも遊んでそうな、美形の男から食事に誘われた。スラッと長身、キリッと細い目、鋭角的な顎、薄くてちょっと意地悪そうな唇…。ぜんぶ、好みだった。表参道の和食屋で、2人とも生ビールをオーダー。鰻の蒲焼や刺身をつつきながら仕事の話で盛りあがってきた頃、男は、突然、こう言ったのだ。
「ねえ、僕と、したいと思う?」
ひゃーっ、驚いた。なんという自信家。真顔で、こんな質問をする男、見たことがない。しかし、彼のナルシストぶりに腹をたてながらも、私は、コックリと頷いてしまったのだ。だって好みだったんだもん。
しかし、なんて駆け引き知らずな…。
そして、2度目に会った夜のこと。新宿のバーで飲んでいた時に事件は起きた。時間はすでに深夜2時。「この男に本気になったら私はボロボロになる」
と感じてた私は、タクシーで帰ろうと、バーの席を立った。すると彼は、こう言ったのである。
「帰らないで。こんなこと女の人に言うの、はじめてだよ」
ガーン。こういう言葉に私は弱いのだ。コロッと本気になってしまう。彼も私を好きなんだ、と、思いこんじゃったのである。(なんてバカな…。)
さて、問題はその後である。彼はよく、「今度いつ会おっか?」と、連絡をくれた。すかさず私は都合のいい日を答える。すると彼は「ごめん、やっぱりしばらく無理」と、スルリとかわすのだった。期待だけさせておあずけ。そういう残酷なことを、男は平気でするのだった。
誘われた時に、私が「う〜ん、今週は無理ね」などといえば、駆け引きが成立していたのだろう。だけど私は、猪突猛進型。思ったことしか口にできない。
思っていないことは口にできない性格なのだ。
男からスルリとかわされ続け、私はストレスがたまった。イライラした。いてもたってもいられなくなってきた。曖昧な関係を続けるよりは、きっぱり男を忘れたかった。結局、会い始めてたった1ヶ月で、私は、自分から「会うのはやめましょう」と、電話できりだしたのだった。
「わかったよ」、と、彼。通話時間は、わずか5分。ああ…ようするに、私はもてあそばれたのである。もう、私の心はボロボロ。だって、本当は、会いたくてたまらなかったんだもの。
結局、彼と会ったのは5回。表参道、新宿、六本木…なんだ、結構会っていたんじゃないか、いや待てよ…。
記憶をたどりながら、私は、重大な事に気がついた。
彼から誘われたのは、最初に会った1度だけだったということに。あとの4回は、私がムリヤリ呼び出して「会ってもらっていただけ」だったということに。
そう、私は、彼の「帰らないで」の言葉にのぼせあがり、シッポを振り、ワンワン吠えた、情けない雌犬だったのだ。あ〜、なんという駆け引き知らず。
こんなことだから、もてない。どうにかしたい。そう思いながら、また、同じ過ちを犯しそうな気がする。
人って、あんま、かわんないんだよね。
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