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   もてない女   - Essay - vol.2  …by香月未央
   
   ■ 好きと言えなくて
 
あれは、学生時代のこと。私は、あるパーティで、あるミュージシャンと知り合った。パフパフッとたてた茶色い髪、色白でほっそりした身体のライン。繊細そうで、綺麗な人だった。

彼は「いつかヒット曲を出したい」という無名ミュージシャン。私は「いつか文章を書きたい」という大学生。似た者どうしの私達は、一緒に過ごすことが増えていった。

彼のアパートの鍵は、いつも開いたままだった。遊びに行くと、彼の仲間達が、わいわいお酒を飲みながら騒いでいる。その隣りで彼は、ギターを片手に、曲作りをしている。私は、あまり話もせずに、ただ、煙草を吸いながら、その雑然とした空間を楽しんでいた。

彼とふたりになりたい時は、街へ出かけた。新宿のバーへ。横浜の中華街へ。
互いに気が向けば、街中のホテルに宿泊することもあった。
会えない時は、よく、長電話をした。5時間も、6時間も。彼は穏やかな性格だったが、音楽の話になると、とても熱くなった。そんなところが大好きだった。

でも私は、自分の気持ちを、彼に伝えることはなかった。彼が、昔の彼女のことを忘れられずにいることを、知っていたからである。彼の部屋で、その彼女の写真を見せてもらったこともある。セミロングの、背の小さい、かわいい人だった。
彼は、いつも、
「まだ誰ともつきあう気にはなれないんだ」
と、さびしそうに話していた。

もし彼に自分の気持ちを伝えたところで、どうにもならなない。私はそう思っていた。もし伝えて、彼に拒否されたら…。怖かったのだ。いつでも会える関係が壊れていくのが。

私の、彼に対する臆病さは、プライドの高さの裏返しだったような気がする。
ふられるなんてかっこ悪い。かっこ悪い女にはなりたくない。そんなプライドが、恋の邪魔をしていた気がする。

そんなある日。女友達から、一本の電話があった。女友達は電話の向こうで、
「ごめん」
と、泣いている。どうしたのと尋ねると、
「彼とつきあうことにしたの。未央に悪くて」
と、さらに声をあげて泣くのだった。

彼女を彼に紹介したのは、彼のライヴの時だった。まさか、私の知らないところで、彼女と彼の関係が進行していたとは…。不愉快だったが、人の気持ちだけは、どうしようもない。私は、黙って、ふたりと疎遠になっていった。

周囲の噂によれば、彼女は、彼に、何度も自分の気持ちを伝えたそうだ。最初はまったくその気がなかった彼も、彼女の熱心さに、最後には、ほろっときたのだという。こういう女の人には、かなわないな、と、つくづく思う。全身で好きな人にぶつかっていく…そんな勇気を持っている女の勝ちなのだ。

当時も今も、私は、恋するとき、とても臆病で、とてもプライドが高いのだと思う。特に、「成功する可能性が低い」と判断した恋の場合、自分の感情を吐露することなど、とてもできない。

その一方で、ちょっとでも可能性があると思うと、必死で自分の感情を伝えてしまう。一度、「好き」という言葉を口にすると、箍がはずれたように「好きだ好きだ」と、四六時中、相手に伝えたくなってしまう。感情のコントロールがまったく下手なのだ。結局、相手から、「未央は、もっとサッパリした女かと思っていたよ」と、うんざりされてしまう。

臆病とプライド、そして感情のコントロール。この3点をどうにかすれば、もっと恋がうまくいくのかも知れない。しかし、わかっているけどどうにもできない。
だから、困っているのだ。




 
【プロフィール】
香月未央(かづきみお)
ライター。女性誌を中心に執筆活動中。今回、なぜ自分は「男にもてない」
のかを分析したくなり、エッセイを書くことに。
   
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