vo.61 心の仮面

誰でもいつもは、すこしは、
本当の自分を隠して生きている。
その方が、
毎日をスムースに過ごせると思って、
しらずしらず、
「心の仮面」を被って生きている。

だけど、好きな人には、
本当の自分を見せる方がいい。
その方が、
好きな人との距離が、
グンと近くなる。
感情を出しすぎて、
ときどき喧嘩になるかもだけど、
本音で話し合える方が楽しいし、
恋も長続きする。

本当の自分を出せないとしたら、
それは、うぬぼれやだからかも。
仮面を被っている自分を、
高く評価しすぎているのかも。

本当の自分を見せるのは、
すこし勇気のいること。
だけど、
本当に好きな人とは、
本音で話してみる。
おたがいをもっとしるために、
勇気を出して、

本音で話してみる。

・ ・ ・ ・ ・ ・

あなたは、自分の本来の姿を隠そうとすることはありませんか? たとえば、「自分は女なんだから、女らしくふるまわなくちゃ」とか。「会社で上司の点数稼ぎのために愛想をふりまいとこ」とか。

そう、私たちは、普段は、「社会生活をスムースに送りたい」という願望をまっとうするために、多かれ少なかれ、自分を作って生活をしているんですよね。

こうした人間心理を、精神科医のユングは、ペルソナと名づけました。ペルソナとは「仮面」のことで、語源はギリシャの古典悲劇。英語のパーソナリティという言葉の語源にもなっています。このペルソナを被りながら、私たちは、周囲の人と協調しながら、生活をしているわけなんです。

ところが、恋愛をしたときだけは、ちょっと事情が違ってきます。恋愛というのは、まったくプライベートな空間です。会社や学校の評価を気にする必要がありません。ライバルとの競争もないですので、損得感情で行動する必要もありません。

なので、人は、恋人に対しては、ペルソナを脱ぎ捨てて、本来の自分の姿を見せようとします。ペルソナを脱ぐとはどんな状態かというと、フロイトのいうところの「無意識」の状態です。

人の心の中には、自分でもよくわからない自分がいる「無意識」の領域と、自分で自分の行動や気持の意味がちゃんとわかる「意識」の領域とがあります。そして、普段の私たちは「意識」の影響を受けて生活をしているのですが、恋愛の世界にいる私たちは「無意識」の影響を受けがちなのです。

ペルソナを脱ぎ捨て、「無意識」の影響を受けた人は、相手に心を開いて話しますので、コミュニケーションを楽しむことができます。身体のコミュニケーションもとりやすくなり、セックスでもエクスタシーを得やすくなります。もちろん、自分の感情をストレートに出すので喧嘩になることもありますが、相手の人と本音でつきあうという、恋の醍醐味を味わえます。

ところが…。中には、好きな人とおつきあいをすることになっても、ペルソナを脱ぎ捨てられず、常に「意識」の世界の影響下での恋愛しかできない人もいるようです。本当の自分を見せるのが怖い。だから、大好きな彼に対しても、建前の話しかできない…。

こういう、ペルソナを脱げない状態で恋人に接していると、どういう恋愛になっていくでしょう?

まず、本音を話せませんから、相手の人は、「この人は自分に対して心を開いてくれていないんだな」と、さびしく感じます。「自分は信頼されていないのかもしれない」と感じ、自分も本音を話しにくくなります。

すると、ふたりのコミュニケーションがなかなかうまくいきません。究極のコミュニケーションともいえるセックスでも、エクスタシーを得にくくなります。心が抑圧されている状態がいつまでも続き、だんだんストレスがたまってきます。つまり、恋愛下手への道をたどってしまうんです。

ペルソナを脱げない人には、自分を大事にしようという気持ちが人一倍強いようです。しかし、その思いは空回りしてしまい、結果として、楽しいコミュニケーションができなくなってしまう…。ペルソナを脱げないいちばんの理由は、「うぬぼれ」かもしれません。

「私の本当の姿なんか知られたら、嫌われるに決まっている」ペルソナをかぶった自分は、本当の自分よりも人に好かれるに違いない。いつもは本当の自分を隠しながら生きているので、本当の自分を見せた途端、相手の人は「だまされた」と思い、私を嫌うに違いない。だから私は、できるだけ本当の自分を隠していたい…。

この考え方は、一見、謙虚な感じがしますが、実はすごく…ペルソナを被った自分を、高く評価しすぎているからこその思い、と言えるのです。

実は、本人が思っているほど、周囲の人はその人のことを高く評価していなかったりもします。むしろ、本当の自分を見せることのできる人を、高く評価する傾向にあります。

本当に謙虚な人は、あまり大げさに自分を卑下しません。尊大な態度もとりません。必要以上に自分を隠さず、のびのびと恋愛を楽しんでいます。

そして、先ほど私は「社会生活では、私たちはペルソナを被って生きている」と書きましたが、実は、社会生活の場面でも、うぬぼれやでない人は、あまりペルソナを被らずに過ごしていて、周囲からも好かれているようです。

つまり、何を言いたいかというと…。社会生活ではムリだとしても、せめて恋人の前では、ペルソナを脱いだ方が「おトク」だということ。その方が、自分を隠しつづけて本音を話せないよりも、何倍も恋がうまくいくんじゃないかということです。

誰だって自分のことは大事。自分のことはかわいがりたいものだと思います。だけど、かわいがりかたを間違えちゃ、せっかくの努力が報われません。好きな人の前ではペルソナを脱ぎ捨てる。それが、自分をかわいがることにつながり、恋愛もうまくいくと思いますよ。

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※このコラムは、2004年頃に10000読者さまに配信していた安藤房子の原点でもあるメルマガ「恋マガジン」の内容をほぼそのまま掲載しています。

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