もてない女   - Essay - vol.1  …by香月未央

■ 恋の駆け引きができなくて

恋は大好き。でも私は、自他ともに認める恋愛下手である。
恋の駆け引きが、まったくできないのだ。
そのくせ、世の中で、もっとも駆け引きの必要な男を好きになってしまう。
駆け引きの必要な男…それは、美形で、もてる男である。
美形の男は、女からちやほやされることに慣れている。
そんな男こそ、じらして、じらして、じらさなくちゃ、ふりむいてくれない。
なのに私は、じらすということができない。
素直に感情を表し、その末に、失恋してしまうのだ。

ある時、いかにも遊んでそうな、美形の男から食事に誘われた。
スラッと長身、キリッと細い目、鋭角的な顎、薄くてちょっと意地悪そうな唇…。
ぜんぶ、好みだった。
表参道の和食屋で、2人とも生ビールをオーダー。
鰻の蒲焼や刺身をつつきながら仕事の話で盛りあがってきた頃、男は、突然、こう言ったのだ。

「ねえ、僕と、したいと思う?」
ひゃーっ、驚いた。なんという自信家。
真顔で、こんな質問をする男、見たことがない。
しかし、彼のナルシストぶりに腹をたてながらも、私は、コックリと頷いてしまったのだ。
だって好みだったんだもん。
しかし、なんて駆け引き知らずな…。

そして、2度目に会った夜のこと。
新宿のバーで飲んでいた時に事件は起きた。
時間はすでに深夜2時。「この男に本気になったら私はボロボロになる」
と感じてた私は、タクシーで帰ろうと、バーの席を立った。
すると彼は、こう言ったのである。
「帰らないで。こんなこと女の人に言うの、はじめてだよ」
ガーン。こういう言葉に私は弱いのだ。コロッと本気になってしまう。
彼も私を好きなんだ、と、思いこんじゃったのである。(なんてバカな…。)

さて、問題はその後である。彼はよく、「今度いつ会おっか?」と、連絡をくれた。
すかさず私は都合のいい日を答える。
すると彼は「ごめん、やっぱりしばらく無理」と、スルリとかわすのだった。
期待だけさせておあずけ。そういう残酷なことを、男は平気でするのだった。

誘われた時に、私が「う~ん、今週は無理ね」などといえば、駆け引きが成立していたのだろう。
だけど私は、猪突猛進型。思ったことしか口にできない。
思っていないことは口にできない性格なのだ。

男からスルリとかわされ続け、私はストレスがたまった。
イライラした。いてもたってもいられなくなってきた。
曖昧な関係を続けるよりは、きっぱり男を忘れたかった。
結局、会い始めてたった1ヶ月で、私は、自分から「会うのはやめましょう」と、
電話できりだしたのだった。

「わかったよ」、と、彼。通話時間は、わずか5分。
ああ…ようするに、私はもてあそばれたのである。
もう、私の心はボロボロ。だって、本当は、会いたくてたまらなかったんだもの。

結局、彼と会ったのは5回。
表参道、新宿、六本木…なんだ、結構会っていたんじゃないか、いや待てよ…。
記憶をたどりながら、私は、重大な事に気がついた。
彼から誘われたのは、最初に会った1度だけだったということに。
あとの4回は、私がムリヤリ呼び出して「会ってもらっていただけ」だったということに。

そう、私は、彼の「帰らないで」の言葉にのぼせあがり、シッポを振り、ワンワン吠えた、情けない雌犬だったのだ。
あ~、なんという駆け引き知らず。

こんなことだから、もてない。どうにかしたい。
そう思いながら、また、同じ過ちを犯しそうな気がする。
人って、あんま、かわんないんだよね。

【プロフィール】
香月未央(かづきみお)
ライター。女性誌を中心に執筆活動中。今回、なぜ自分は「男にもてない」
のかを分析したくなり、エッセイを書くことに。

 
※このコラムはほぼ「恋マガジン」配信当時の内容です。
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