甘える男たち  - Essay - vol.1  …by千住沙良

 ■ 捨て猫男

チューリップの名曲、『虹とスニーカー』の一節に、「わがままは男の罪」とあるが、男の我がままを、女はどれだけ許すことができるのだろうか?そして、許してはいけないのだろうか?

私が最初に付き合ったのは、友達の8m/m映画制作で知り合った一つ年下の男の子。彼は映画俳優志望のフリーター。
夢はデカイが金は無い。

風呂無しの共同アパート暮らしだから、デート代はいつも私のおごりで、食費に電話代、時には家賃の一部も。私がいなけりゃどうするの?

でも、「こんな俺でごめんな。」なんて上目使いに潤んだ目で言われてごらんなさい。
女だって若いうちはリスキーな男に弱いもの。

ましてや
「絶対有名になるから!そしたら、ビバリーヒルズは無理でも、ロスにサンテラスの付いた家を買って一緒に住もうぜ!」
なんて言われたら、よっしゃ!私がコイツを何とかしてやらねば、という気になってしまうではないか。

だが、コヤツ、私一人にそのクサイ芝居を打っていたのではなかったんである。

彼の下宿の近所に住んでいる後輩が
「○○君たら、腹減った~って電話してくるからシチューつくってあげたんですよ」と言うのを聞いて、
え?と思った矢先、引っ越しするから、しばらく会えないとの電話。

1週間後、今度は別の友達から
「ごめんなさい!悪いってわかってはいたんだけど、俺、淋しいよおって、びしょ濡れでドアの外に立ってるだもん。私も可愛そうになっちゃって」と、彼と同棲していることを泣きながら告白されるに及んで、やっと私も気がついた。彼は「捨て猫男」なんだって。

ミャーミャーと哀れっぽく泣いてすり寄っていけば、大概の人は餌をくれて、一晩の寝床を提供してくれる。
でも、野良は誰のものにもなりたくないから、気紛れにふいっと出ていってしまう。
現に、彼は彼女の部屋からも鍵だけ残して、突然姿を消した。
3日後、彼のシャツが彼女の女友達の部屋の窓に干してあったそうな。

このタイプの男に溺れないためには、一つしか手だてがない。
それは「同情しないこと」。

恋と同情を見間違うと、泣きを見るのは必ず女。
風の噂では、彼はいまだに役者じゃ売れてないけれど、それだけは名演技で、やさしい飼い主を渡り歩いて暮らしているらしい。

【プロフィール】
千住沙良(せんじゅさら)
リライター。企業社内報などの編集の傍ら、ミニコミ制作も。
多数の失恋経験をもとに、男性分析のため、今回、エッセイに挑戦。

※このコラムはほぼ「恋マガジン」配信当時の内容です。
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