a gateway ~自立への関門~ - Story - vol.1  …by中野 未治子

■ 決壊 ~夫の愛情を持て余して~

土曜の朝が近づくと呼吸が、苦しくなる。毎週のことだ。子供を寝かしつけ、自分も眠ろうと横になるのだが、どうしても眠れない。
真っ暗な部屋で天井を見ながら、心の中に、どろどろと広がっていく感情。それは恐怖―。

私は今年32歳になる専業主婦だ。24歳で2つ年下の夫と結婚してもう8年。
6歳と4歳の子供がいる。半年前から夫は単身赴任で週末にしか帰ってこない。

近所の奥さん達から「あら、大変ね、寂しいでしょう?」等と聞かれることがあるが、その度に私は「ええ、まあ」と引きつった顔で答える。
本当は寂しいなんて全く思ってない。

何故なら私の恐怖の原因は、「夫が明日帰ってくること」なのだから。

土曜の朝早く、いつものように、嬉しそうな顔をして帰ってきた夫は、昼間買い物などに出かけ、夜7時には子供達と和やかに夕飯を済ませた。

そうこうするうちに、子供達は2階で眠ってしまい、夫婦だけの時間がやってきた。

その頃には私の恐怖はピークに達していた。布団を口のあたりまでかぶり、疲れ果てて眠っている芝居をするのに必死だった。

すると…。
背中を向けて横になっている私に、迫ってくる夫の体温を感じた。
冗談ではなく全身に寒気が走り、鳥肌が立ってしまった。

背後から手を伸ばして私の肩をなでて「もう、寝た?」そう聞く夫の口臭に吐き気がする。
一生懸命寝ているふりをするが夫の手はそんなことにかまわず、パジャマのボタンを外してするりと入ってくる。

週末ごとの夫との時間が、私の心にどれだけの負担をかけているだろう。

女は愛が無くてはセックスできない。
色々な人がいるだろうが、少なくとも私はそうだ。男はどうなのだろう。

私は夫を必要としている。それは、経済的に、そして家庭を維持するために。
しかし、愛は…無かった。

実際は、夫もそうなのではないだろうか。彼は、普段、私の話など聞きはしない。

子供のことや自分の仕事、そんな話ばかり。そして私には完璧な母や妻であることを求めている。
一日中、家事をきちんとこなすことを強要され、しかし夜になると貞淑な妻が娼婦に変わることを望む。

昼間は私になど興味ない風の夫が、夜になり迫ってくるたびに、猫なで声を出す。
その変貌ぶりに、私はいつしか、抑えきれない嫌悪感を感じるようになっていた。

夫が愛しているのは、自分の思う通りの女であるワタシ。
そうでないワタシは必要としていないのだ。

過度な嫌悪感が私の体に異変をもたらしはじめたのはそれから間もなくのことだった。

【プロフィール】
中野 未治子(なかのみちこ)ライター、イラストレーター。
印象に残る文章、イラストを目指し日々精進中。

 
※このコラムはほぼ「恋マガジン」配信当時の内容です。
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