人間は誰しも、ストロークを交わしながら生きているものです。
ストロークとは、自分が交流している相手に対する言動のことです。
この言動のことを、心理療法のひとつである交流分析では、
ストロークと呼んでいるのです。
そして、ストロークには2種類あります。
プラスのストロークと、マイナスのストロークです。
プラスのストロークとは、相手の人に感謝をしたり、ほめたり、
尊重したりという言動のこと。
マイナスストロークとは、相手のひとをなじったり、怒鳴ったり、
殴ったりという言動のことです。
そして、
恋人に対してプラスのストロークを頻繁に使っていれば、
楽しく前向きな「プラスの恋愛」を楽しむことができます。
一方、マイナスのストロークを多用してしまいますと、
一緒にいればいるほどお互いに痛めつけるような辛い恋愛に
なってしまうのです。
……と、ここまで読んでくださったあなたに質問です。
「あなたは、プラスの恋愛とマイナスの恋愛、どっちが好き?」
おそらくほとんどの人が
「プラスの恋愛が好き」
とこたえるのではないでしょうか。
しかし、そう思いながらも、ついつい恋人を責めたり、
恋人から責められたり…そんな恋愛から脱け出せない人たちがいます。
つまり、日常的に、プラスのストロークを実践することができずにいるのです。
ドメスティックバイオレンス(恋人や配偶者に対する暴力)で悩む人たちが
まさにそうです。
「彼に殴られる毎日で辛い。だけど、彼から離れられない」
こうして悩む人も、暴力をふるっている人も、
プラスのストロークができない人たちなのです。
では、なぜマイナスのストロークを選んでしまうのか。
それはおそらく、彼らが過去にプラスのストロークを受けずに
育ってきたからでしょう。
小さいときにほめられなかった。暴力をふるわれて辛い思いをした…。
こうした過去がありますと、暴力をふるったり、ふるわれたり
という日々を無意識のうちに選んでしまいがちなのです。
また、小さいときに譲り合いの精神を知らずに育った人も、
暴力をふるうようになりがちです。
フラストレーション耐性が身についていないので、
日常生活にちょっとでも不満があると気持ちが爆発してしまうのです。
実は、私のもとには、恋人やパートナーの暴力に悩む女性からも
ときどき相談をいただきます。
そんなときに私は、
すぐにでも相手の人と離れることをおすすめしているんです。
ほかの問題なら解決しようがありますが、暴力だけは逃げるしかない。
そうしないと、とりかえしのつかない事態になりかねないからです。
ふたりが離れること、
それが、お互いがマイナスのストロークから脱け出すための一番の方法なのです。
ところが、多くの相談者の方は、なかなかパートナーと離れようとしません。
それはきっと、人間はプラスであれマイナスであれ、
ストロークなしでは生きていけない生き物だからなのでしょう。
人間は誰でも「人と離れたくない」という【分離不安】を持っています。
暴力をふるわれる人もまたそうなのです。
暴力をふるう人でもいいから、そばにいてほしくなってしまうのです。
中には、
「今は暴力をふるうけれど、彼はきっと変わってくれるはず」
と思いこみ、長期にわたって暴力をふるわれ続けている人もいます。
これは、ドメスティック・バイオレンスという行為をする人が、
「3つの段階」で暴力をふるうこととも関係しているのでしょう。
暴力をふるう人はたくみです。
無意識に、相手の心をひきつけるような暴力のふるい方をします。
第1段階は、ちょっとだけ暴力をふるう。
第2段階で、暴力はピークをむかえます。
そして第3段階で、相手に対して優しくなる(=プラスのストローク)を
与える人もいるのです。
この第3段階のプラスのストロークを受けてしまった人ほど、
なかなか相手と離れられずにいるように思います。
最後に優しくされたことで、相手に対して
「きっと、これからは暴力をふるわなくなってくれるはず」
と期待をしてしまうのです。
しかし、ひどい暴力をふるう人の性質は、なかなかかわりません。
プラスのストロークを求めても、与えてはくれません。
だからまずは、暴力をふるわれた側が、相手にプラスのストロークを
与えるしかない。
そして、自分自身にもプラスのストロークを与えてほしいのです。
自分をほめる言葉を口にしてもいいですし、自分がいちばんやりたいことを
やってみてもいい。
そしてやはり、なにより…暴力をふるう人から逃げることが、
自分に対する一番のプラスのストロークであり、
相手の暴力癖を直すためのプラスのストロークにもつながります。
たった今、暴力で悩んでいる方へ…。
2001年4月にはドメスティック・バイオレンス防止法が交付され、
全国の地方自治体に暴力をふるわれた人が駆け込む場所ができました。
こうした場所にまずは相談をしてみてくださいね。