「彼は、男友達を大事にする人だった。後輩と飲みに行くとすぐに奢っちゃうの。生活費はいつも私が稼いでいたけど、二人でいると話がつきなくてね。これほど相性の会う人はいないって感じでした」
お金のことは、沙耶香さんもある程度は納得していた。でも、毎日一緒にいるうちに、恋が愛に変化してきて…。「つきあって5年経った頃には、彼が、一番大事な肉親という感じになっちゃって。誰よりも彼を好きなのに、セックスに誘われても断っるようになっちゃったの。だんだん、彼も誘わなくなっていきました」
「よその男」とならセックスはできる。そんなに好きではなくても。だけど、どうしても浩二さんとは、そういう気分にはなれなくなってしまったのだ。
そんなある日、二人の住むマンションで浩二さんがシャワーを浴びている真昼に、知らない女から浩二さん宛に電話がかかってきた。沙耶香さんが電話に出ると、女は「えっ?」と言ったきり、慌てて電話を切った。なんだろう。そう不信感を持った沙耶香さんは、これから仕事に出かけるという浩二さんの後をつけてみた。
「そうしたら、彼、仕事場とはまったく違う方向に向かうんです。小さなアパートの一室に入っていって…。勘が当たったんです」
アパートに乗りこみたい気持ちをおさえて沙耶香さんは、いったんは浩二さんとの部屋にひとり戻った。しかし、心がどうにも静まらない。ふと、電話の再生ボタンを押してみた。
「浩二がシャワーを浴びる前に、私がシャワーを浴びていたのね。きっと浩二がその時、自宅から女に連絡をしたに違いないと思ったの。だって当時はお互い携帯なんて持っていなかったし。案の定、電話の向こうでもしもし…って出たのは、さっきかけてきた女じゃない? 愕然としましたね」
何も、話せない。すると電話の向こうで女は、ねえ、へんな電話だわ、と言い、その後ろから「切っちゃえよ」という、男の声が聞こえくる。
「浩二だったのよ。私、ショックで沈黙のまま、受話器を置いたんです」
自分も確かに浮気をしていた。でも、今では浩二を責める気持ちだけが渦巻いている。そして、沙耶香さんの、まるでストーカーのような生活が始まるのだった。
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