「結婚するとバカになるのかな。結婚した友達の話題って子供と旦那のことばかりで視野が狭いの。幸せボケなのか感情が鈍化しているのか…。所詮、結婚て安心感を手に入れるための契約でしょ。独身で恋が充実していれば、別に契約の必要はないんじゃないかな」
派遣社員のマサ子さんは常に「複数との恋を楽しんでいる」。同居している母と妹は「諦めているのか何も言わない」が、親しくない知人ほど「離婚してもいいから一度は結婚したら」と急かす。
「うんざりです。私は子供が大嫌いだし出産願望もゼロ。不細工な夫婦が子連れでゾロゾロ歩いているのを見ると虫唾が走ります。でも…26歳の頃かな、ひとりだけ結婚したい彼がいたなあ」
当時、マサ子さんは映画の製作スタッフをしていた。一緒に映画を作っていた隆夫さんとは、別れてはまた一緒に住むというズルズルした関係を、4年ほど続けたという。
「もともと頼み込んで同棲してもらったんです。掃除嫌いな元の彼女を忘れてほしくて家事を頑張っても、家に女を連れこむし、"あいつ(元の彼女)以上に好きな人はできない"って言うばかりだし。ロンドンに留学中の元の彼女から仕送りしてと言われればホイホイお金を送って、終いにはよりを戻すし。でも、何度フラレても、電話がくると私はまたついていっちゃう…。どこが好きかって、切れ長の目と男っぽい表情も…ひとりじゃ眠れないってだだっこみたいに甘えるところも…ぜんぶ好きでたまらなかったんです」
最後にフラレてから5年の月日がたつのに、彼との思い出はも、女の日常を侵蝕する。
子供が嫌いなのも事実。目の前の恋を楽しみたいのも事実。でも、彼女が結婚しない大きな理由は「彼」だったのだ。
「新しい恋をして結婚をせまられても、悩んじゃうの。で、悩んでいるうちに、男は去っていくのよねえ(笑)」
SMに熱中したり、親友の彼を奪って泥沼になったことも。でも彼女は、
「セックスはあんまり好きじゃない」
のだと言う。子宮内膜症だからセックスすると膣の奥に鈍痛が走る。セックスは、恋をスムースにするために仕方なくしているだけ。
「それに隆夫のこと、忘れられなくて」
最後に彼女は、少しさびしそうにポツリとつぶやいた。
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