「私は、彼にとっていつも2番目の女なのよね。13年前に知り合ってから、ずっと」。
恵美さんは、ポツリとそう呟いた。ハッキリした目元。ぽってりとした唇。むかしは結構キレイだったのだろう。でも、目の前にいる恵美さんは妙にやつれていて、36歳にはとても見えない。毛玉のついたグリーンのセーター。流行遅れのデザインの黒いミニスカートにピンヒール。彼女は今、タレントの裕二さんとの恋のためにすべてのお金を使い果たし、自分のシャツ1枚買う余裕すらない。
つきあって別れて、今は同居している二人。つきあいは長いけど、結婚の予定はない。いつも「2番目の女」らしいのだ。恋に疲れた女は、ブスになる。どんなに生まれつきの美人でも。
彼女はカウンセラー。しかし本当は「自分の話を誰かに聞いて欲しいくらい」だと言う。
かつて恵美さんはSMクラブ「P」の女王様として働いていた。裕二さんは週に1度のペースで「P」を訪れ、そのたびに恵美さんを指名した。いつしか2人はプライベートタイムで会うようになっていった。
「裕二、私とつきあう直前までイベントコンパニオンとつきあっていて、結婚間近でふられてたらしいの。彼、途方に暮れながら私のマンションに転がり込んできたんです」
肉体的には恵美さんがSで裕二さんがM。しかし、日常生活ではその関係が完全に逆転した。常に2人の行動の主導権を握るのは彼、従うのが彼女。そこで恵美さんは、大きなミスをおかしてしまったと言う。
「レストランに行ってもショッピングに行ってもお金を払うのはいつも私。いつの まにか、彼にとってただの都合のいい女になっちゃって。でも、彼がテレビに出ている姿を見ると、ああ、才能のある人とつきあっているんだなって誇らしい気持ちになっちゃって。女友達から"有名人の恋人なんてすごいわね"なんて羨ましがられると嬉しかったし。だからいろんな不満は私が我慢しなきゃって…何も文句が言えなかった。本当に好きなのに、彼にとって私は、前の彼女の代わりに過ぎなかったの」
裕二さんは、毎日遊び歩いて疲れたときに恵美さんの元へ帰ってくるだけ。女の影を感じたこともある。そんな男ふっちゃえばいいのに、恵美さんはどんどん裕二さんにハマってしまった。
彼には、ほかの男にはない魅力があった。少し強引な性格、無口だけど気の利いた会話が上手ななところ、支払いは恵美さんだとしても、流行りのバーに連れて行ってくれるところなど、全部好みだった。お金のためなら人を蹴落としてでも仕事を得ていくズルイところも、嫌いにはなれなかった。だけど、週に6日は帰ってこない彼を待ちながら次第にストレスがたまり、彼女は過食症に陥ってしまう。
「5年経ったある日、彼が突然、私の前から消えたちゃったんです。どっかの大企業の社長令嬢と結婚すると言って…私、わけがわからなかった。でも…よく考えてみたら5年間の間に、私たち、3回しかセックスをしていないの。それは、裕二が淡白なタイプだからだと思っていたけど、違ったみたい。彼、私とつきあいはじめてすぐに、結婚した彼女と知り合っていたんです。なんだかくやしくてね。裕二、私の前につきあってた女とは結婚寸前までいって、私の後の女と結婚でしょ。私とは、結婚の話題なんてこれっぽっちもでたことがないのに」
それで、2人の恋が終わっていれば、まだよかった。ところが、別れて5年の歳月を経て、2人は同居してしまう。これがまずかったのだ。
「一体私は、彼のなんなのでしょう」そう話ながら、恵美さんはぼろぼろと涙をこぼすのだった。
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