「セックスってお芝居の中の世界みたい。ずっと、そう思っていたんです」
レイコさん(仮名)は20歳の頃、アダルト向け出版社で働いていた。ヌード撮影現場にたちあったり、弁当を食べながらアダルトビデオの品評会をしたり…仕事は面白かった。でも、仕事で見るセックスは、前戯もなくいきなり行為におよぶ。処女だった彼女は、そんな「プロセスのないセックス」を自分にあてはめることができなかった。
22歳の頃、役者の卵の彼と恋をした。アングラ役者あがりの彼は、姉弟のようにじゃれあることで彼女の性に対する嫌悪感を払拭してくれた。次第に、手を握ったり、髪に触れたりすることに抵抗もなくなった。「でも、彼から"おまえは女だけど頭の中は男だな"って言われたんです。気がついたら彼、フェロモン系の私の友人の恋人になってた(笑)」
レイコさんはひとりっこ。両親と3人暮らしだ。
「男の人と、何でも話せるいい友達にはなれるんです。でも、なかなか恋人にはなれなくて。今の彼も、恋人というより茶飲み友達みたい。彼と落語に行ったり蕎麦屋で一杯やるときが一番楽しい(笑)」
もちろん、彼のことは好きだ。言葉と体力を失った母親のサポートをしながら在宅ワークをしている彼女は、
「今の状況を、私の家族を彼に負わせるわけにはいかない。だから結婚しない」
と、言う。
彼はミュージシャン。6年前に、はじめて彼のライブを見た時に、
「どこかで会った気がするなあ」と思った。それからのつきあいだ。彼は、マイナーなアーティスト。経済的に裕福とはいいがたい。そのことも、二人から結婚を遠ざけている理由のひとつかも知れない。彼のことは大事。だけど、今の距離がいちばん心地いい。彼女は、今年40歳。「私は結婚できない女かも」と言う。
「結婚すると、彼と一緒にいることが義務になってしまう。お互いがフィフティフィフティで好きでいられるのではなく、そこにお互いの親とか会社とかのバックを負わされてしまう。だったら、結婚しなくてもいい。お互いが安らげる関係が続くのが、いちばんですから」
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