最終回ということでちょっと悲しい「別れ」のはなし。
高校三年生の時、とても素直で真面目な彼女とつきあい始めた。あまり高校にも行かず、大学に進学する気のない私は彼女を毎日のようにつれまわして遊んだ。一方、彼女は進学を希望していたが、私とつきあい勉強がおろそかになり当然のごとく入試に失敗した。私は彼女から勉強する時間を奪ったことをひどく後悔した。そして、なにを血迷ったか高校卒業間際に私は彼女にこう言った。
「一年間会うのをやめ、連絡もとらず、二人別々の場所で猛勉強して同じ大学に入ろう」
いま考えると80年代の青春ドラマみたいで気恥ずかしくなるような台詞である。
その後の自分は、彼女と同じ大学に入りたいというただ一心で、朝から晩まで連日連夜死にものぐるいで勉強した。声が聞きたくて電話のダイヤルをまわして途中で手をとめたことが何度もあった。
1年がたった時、人づてに彼女が某大学に入学を決めたという噂を聞いた。残念ながら彼女は1年前に入学をすることを誓い合った大学には落ちてしまっていた。私は当初考えていた志望校に合格したのだけれど、彼女が入学を決めたという大学にも偶然合格していたため、当初の志望校の合格をけって彼女と同じ大学に入学をすることを決意した。もちろん、なんのためらいもなく。
そして報告のため彼女に会いに行った。
同じ大学に入学できてよかったという幸せの絶頂にいる私にたいして、彼女は重たい口を開き
「好きな人ができたの…」
一年間分の会いたい気持ちをどう処理してよいのか分からず、ただひたすら泣きながら彼女をひきとめようとした。しかしそれもかなわず、恋は終わった。
さらに、同じ大学に入学したことが自分を苦しめた。キャンパスにいるといつも彼女のことをさがしてしまっていたのだ。彼女を忘れることができず、その後も何度か自分の方にふりむいてもらおうと努力したが無駄だった。むしろ努力すればするほど彼女が遠のいていく気がした。過去に縛られ、前に進めない自分がみじめだった。
それ以来、いつでも美しい別れをしようと心がけるようになった。どんなに泥沼の別れ話でも、二股をかけられて一方的にふられても、罵倒されても
「あなたに出会えたおかげで自分はこんなに素敵な男になりました」
と笑ってさよならを告げるように。
この盃を受けてくれ
どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ (于武陵 訳:井伏鱒二)
いいじゃないか、それで。貴女も別れた男が後々後悔するような「素敵な女になってくれ!」
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