女手一つで子どもを育てていくということは、並大抵ではないくらいのストレスがかかる。時々、大きな厚い胸板に抱かれて眠りたくなってしまう。
こういう女の弱さにすっぽりと入りこむ悪い男が世の中にはごまんといる。
離婚後の初めての恋はまさしくこのぽっかりと穴の空いた「寂しさの空洞」に入られてしまった感じだ。
テレビのフリーディレクターのSさんとは、近所の定食屋兼居酒屋で出会った。
夕食がてら子どもたちとよく通った店で、互いに常連客同士という関係上、急速に仲が深まっていった。彼は私よりも先に子どもたちと仲良くなっていった。
私はこの人が新しい父親、夫になるんだと信じて疑わなかった。
彼は2年前に離婚したばかりで、子どもがなく、とてもかわいがってくれた。
再婚にはなんの障害もなかった。
出会ったきっかけとなった店のマスターやママさん、常連客の間にも、「結婚式はいつ?」なんて言われるようになった頃、彼が私にぽつりと言った。
「実は借金があるんだ」
明細を見て驚いた。サラ金数社ばかりか、質屋、闇金融のものまで総額800万円にのぼっていた。特に利息が雪だるま式になる闇金融のほうは、10日おきに莫大な利息が増えていく。
私は恋の病にかかっており、まともな判断能力を失っていた。
「一つのサイフになるんだから、早くなんとかしなきゃ」としか思わなかった。
ただ、一抹の不安が頭をかすめたので、「私の親に会える?」と切り出してみた。
「うん、いいよ。会いにいく」と彼は言った。
そして、彼は親や姉の前で「ちゃんと結婚しようと思っています」とはっきり言った。それを聞いて私は彼のことを信用してしまった。
私に返済ができるのは、闇金融から借りた分だけだった。彼はさらに要求してきた。会うたびに何十万渡していたので、すぐに底がついてしまった。
「ごめん。もう私、これ以上は出せない。もう限界」と言ったその日以降、彼からの連絡が途絶えた。そう、彼は優しい仮面をかぶった結婚詐欺師だったのだ。
しかし、そこからの私は強かった。逃げる彼を捕まえて、念書を書かせ、一年かけて全額を取り戻すことができたのだ。
お金は戻ってきたが、この傷は心に深く残ってしまった。
もう二度と恋なんかしない……そう誓った…なのにまた私は再び過ちを犯すことになるのであった。
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