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   ぼくが結婚できないわけ - Essay - vol.2  …by皐月けんた
   
   ■ 愛されたいのに、愛されたくないぼく
 
ぼくの名は皐月けんた。28歳、独身。
なぜか僕のまわりには、精神的に疲れた人たちが集まってくる。いや、自分でおびき 寄せてるだけなのかもしれない。

ぼくが中学2年生の時、初めてつきあった彼女もそうだった。彼女は幼少の頃、父親を交通事故でなくしていた。母親は給食の調理員をしていたのだが、自分とつきあう前頃から、ある男性と再婚したいと言い出したという。
彼女はそれを死ぬほどいやがった。どうやら、その男性が娘になるはずの彼女に対して色目を使うらしかった。単刀直入に言えば性的虐待を行おうとしたのである。
彼女はだんだん家に帰らなくなった。夜ごと遊びにでかけ、明け方に家に帰り、シャワーを浴びて学校に通う日々が続いた。そんな生活をしているところでぼくは彼女と知り合い、つきあうようになった。なんの事情も知らず。

つきあい始めて2ヶ月目ぐらいの頃、そんな事情を彼女から聞かされた。
中学2年生のぼくにとって、その事態はあまりに複雑でよく理解ができなかった。ただ、単純に彼女が精神的に苦しんでいること、その男を憎んでいるということだけはわかった。
そして単純なぼくは彼女に頼まれて、母親とその男が一緒にいる時に話をつけにいった。
なぜか学ランを着込み、木刀をもち、そのころ流行りのパンクバンドよろしく髪の毛を逆立てて乗り込み、叫んだ。

「てめえ、この家からでてけよ」
ぼくは彼女の母親にもその男性にも会ったのもはじめてだった。いきなり家に学ラン・木刀・髪ツンツンの少年が飛び込んできたから相手は鳩が豆鉄砲くらったような顔をして凍りついた。
しかも、その頃のぼくは理論立てて順序よく「おはなし」することができなかった。そして、案の定、警察が呼ばれてぼくは補導されていった…。なんの騒ぎかと驚いた隣人が通報したのだ。
一応、ぼくの名誉のために付け加えておくと、はなから暴力をふるう気はなかった。相手もごく普通のおじさんだったので、ことは穏便すすみ(?)無事ぼくが補導されるという結末で終わった。

その後の成り行きが気になると思うので一応説明しておくと、僕が乗り込んだからかどうか理由は定かではないが、彼女の母親はその男とわかれ、ついでに自分も彼女にふられた。
理由は簡単、彼女が格好いい先輩から告白されて、自分よりその先輩を選んだから。ま、人生そんなもんだ。

その後も、自殺未遂を繰り返す女性、多重人格の女性、拒食症の女性、鬱病の女性、いや、ほんといろんな人が自分のところにやってきた。
しかも、女性に限らず男性までも。
 
ある時酒を飲んで酔っぱらったいきおいで道ばたの占い師に占ってもらったところこう言われた。
「あなたの周りには弱い人が集まってきます。その人たちに手をさしのべなさい」と。
んな、あほな。残念ながらぼくは神でも仏でもない。ただのできそこないの頼りない28歳、独身、男である。他人のことなどかまっていたら、自分のことに手がまわらなくなってしまう。

なのに今夜も夜中3時頃きっと電話がくるのだろう。
「ねぇ、寝れないからなんか話して…」
疲れた体にムチうってぼくは優しくこう答える。
「うん、いいよ。今日なにしてたの?」
相手は嬉々として今日おこったことをつぶさに夜が明けるまで話し続けるだろう。

つまり、ぼくは愛されたくないのだ。困るのだ。愛されると応えてしまいたくなるから。どんな人の愛でも。誰に愛されればいいのか、誰を愛すればいいのかいまだに分からないのである。

あぁ、こんなぼくはやっぱりまだまだ結婚ができない。

 
【プロフィール】
皐月けんた(さつきけんた)。28歳。「打ち合わせで酒が飲める」という理由だけで出版業界に首を突っ込んだ、アル中エディター。今後は表現者のプロデュース活動も行っていく予定。
   
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