北の海に住むトドは、1頭のオスが何十頭ものメスを従え、他のオスを排除する。
強いオスの子孫のみを残すための自然の本能。
だが、それが人間の場合には? もう絶対失敗しない!と次に私が付き合ったのは会社の同僚。見た目はチビで野暮ったいが、会社に馴染めず孤立していた私に、彼だけがやさしかった。
しかし、会社は社内恋愛禁止。
諦めていたのだが、二人きりで残業の夜、向こうの方から「飯食わない?」
そして、その夜…。こうして、私たちの極秘交際が始まった。
しかし、デートは完全に彼のペース。土日は趣味のサーフィンに取られ、退社後のわずかな時間だけが二人の世界。しかも、一戦交えたあとはすぐに背を向けて一人で鼾をかいて寝てしまう。
そして、私の耳に入ってくるのは彼の女癖の悪さ。
絶えず社内の誰かと噂にのぼる。彼は否定するけれど、不安は膨らむばかり。
そんな私を慰めて、逢瀬の連絡役を引き受けてくれたのは、会社で唯一仲良しの一回り年上の経理のお姐さん。
もうご主人もいて、「好きだったら一緒にいなくちゃ駄目。距離が遠くなれば心も遠くなるの。」と檄を飛ばしてくれるのだった。
迷う私は思いきって聞いた。「遊びならそう言って。でないと、私、あなたのお荷物になっちゃうから」。彼の返事は「背負ってやるよ。お前ひとりくらい。」
そして、都営住宅の応募葉書を持ってきたのは彼の方だった。「連名で出してもいいだろ?当たらなかったらアパート探そうな。」その言葉に、私は会社を辞め、正月には両親にも会ってもらった。
すべては滞り無く流れていくはずだった。
だが、突然、彼が言った。「ごめん。お前と結婚できない。彼女に子供ができた。」彼の口から出た、その彼女の名前は、経理のあのひとだった。
二人の関係は入社の時から続いていたという。
そして、私と付き合っている間も。
妊娠が彼女の旦那さんにバレて、彼女は離婚されたという。
「彼女が、これを逃したら子供はもう産めない。だから産みたいっていうんだ」
うなだれる彼に、私は返す言葉も失っていた。そして、彼は彼女と結婚した。
失意のどん底の私に、何も知らないかつての同僚の男性が電話をかけてきた。
「○○君の結婚披露パーティー来ない?まさか、あの二人ができてるなんてなあ」歯を食いしばって、知らないふりをする私に、同僚はさらに続けた。
「籍入れたって言った時、部の女の子が総スカンで、婚約不履行で訴えるって奴もいてさ。ほとんどとできてたらしいぜ。まさか君は違うよね?」
自分のナワバリのメスは全部自分のもの。それが彼の本能だったのだ。
そんなトド男に勝つためには?メスの頂点に立つ!それしかない!
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