私を心の闇から救い出したのは思わぬ人からの手紙だった。
小学生の息子が差し出した4つ折の便せん。そこには、担任の丁寧な文字が並んでいた。
「最近、息子さんの様子がおかしく、精神的にストレスがあるようで気になります。本人は『何もない』と言いますが、ご家庭の方で気にかかる事があれば教えて下さい」
読んだ瞬間、頭が真っ白になった。
「ワタシダ。ワタシガ、ゲンイン ダ」
後悔、悲しみ、懺悔。
全ての感情にに飲み込まれ、涙が溢れ、止まらない。
思い通りにならない生活に、泣いたり怒ったりの母親を見て、息子はどれ程苦しんだろう。教師からの問いかけに「何もない」そう答えた後、どんな気持ちで、私の元に帰って来たのか。
次第にクリアになっていく意識の中で、私は今までの自分を思い返した。
私は、いつも誰かに頼っていた。夫に経済的に依存し、その上、自分に興味を持たない彼に不満を持った。夫を愛していない自分を棚に上げて。
独りよがりな想いで体を壊し、その心の支えを小林に求めた。
そして、母としての役目を放棄することで子供達にすら頼ってしまっている。
全てに気づいた時、自分の罪深さに愕然とした。これからどう生きていくべきなのか心底悩んだ。暗い深海の中をあえぎながら。…もがきながら。
そして…
「離婚」これが私の出した結論。私は我慢と依存だけの生活を続けることで、子供達に精神的な負担をかける母でありたくなかった。何より、このまま暗い想いに支配された人生を送りたくはなかった。
子供達にとって、ベストの選択だったかは分からない。
しかし、私の自立は、彼らにとっても絶対に必要なもので、今どんなに苦しくても、未来の幸せの為に、敢えて選ぶべき道だと思ったのだ。
夫に離婚を納得させる為、私は土下座をし、頼み続けた。
くじけそうになる度、心の中で叫び続けた。
「依存せずに自分を信じて生きる。自分の為に。そして自分の愛する者達の為に!」この答えを見つける為の、あの長いトンネルだったのだ。
3ヶ月後、根負けしたように、離婚を承諾した時の、夫の言葉は今でも忘れられない。「いつも俺に無関心だったお前が、こんな真剣な目で俺を見るのは初めてだな。皮肉だけどな…。」
今、私は子供達と3人で暮らしている。離婚が成立するまでの間、精神的に辛かったが、あの病の症状は一度も出なかった。
自分が己の為に必死になっている時、病は身を潜めるものなのだろうか。
あるいは、この先、またあの動悸が襲ってくるのかもしれない。
でも今はまだ来ぬそれを思い悩むよりも「光に向かって顔を上げて生きていける自分を信じてみたい。
これから先は逃げない。苦しみを経て私は、一つ階段を上がったのだ。
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