初めて“真面目”にチョコレートをあげたのは、中学3年生のときだった。
彼の家まで行って、彼を呼び出して、正面切って言った。
……すきです。
そして、彼にチョコレートを押し付けると、
わたしは返事を聞かず、逃げるように走り去った。
それから数日後、彼からの手紙が届いた。
「姉貴のレターセット(カワイイなー)を盗んで書いています」
という言い訳から始まったその手紙には、
わたしの「すきです」に対する返事の代わりに
「高校受験がんばれ」とお守りが入っていた。
一つ年上だった彼の通っている高校に、4月からわたしも通うはずだった。
そして、4月。
彼とわたしは同じ電車に乗り、違う駅で降りる日々が始まった。
そう、わたしは彼と同じ高校には行けなかった。
わたしが受験した高校は、彼の通っていた高校じゃなかったらしい。
マジかよー!(涙)
あれから長い時間が過ぎて、わたしたちは今でも仲良しだ。
実は、付き合ったことは一度もない。
「すきです」の返事すらも聞いていない。
でも彼は、いつでもほどよくいい感じでわたしの人生に関わっている。
知り過ぎないから、馴れ合わない。
馴れ合わないけど、よく馴染む。
甘やかな口づけや、息が詰まるような濃密な時間はなかったけれど、
日向の昼寝に飽きた呑気な猫の気分で
「ちょっとかまっておくれ」
とゴロゴロすり寄れる気安さは、
恋愛では手に入りにくい貴重な関係だ。
女が正面切って男の子に告白するのがバレンタインデーなら、
口説くのは何も、本命の男じゃなくてもいい。
恋人には見せられないダメな自分をさらけ出せる
“駆け込み寺”のような男友達に、
――いつか、うっかり恋するかもしれないけど、
いつまでも美味しいお酒が飲める関係でいよう。
なんていう告白もアリ。
チョコレートの甘さより
おせんべいの香ばしさがしっくりくるような
お醤油味のバレンタイン。
大人の女にだけ許された特権だ。
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