南の島に行くとしたら、何を持っていくだろう。
お気に入りの本を数冊。新しい水着。かばんのすみには香水もしのばせたい。
となりに好きな男の子がいて、夕暮れに美味しいお酒が飲めたら
バカンスとしては文句なしだ。
南の島はいつだって、バカンスのためにあると思っていた。
沖縄の竹富島に行くまでは。
ぬちぐすい。
“ぬち”は命、“ぐすい”は薬。
ぬちぐすいとは沖縄の方言で“命の薬”という意味だけれど
本当の薬のことじゃない。
人のやさしさ、心が洗われるような出来事、美しい風景、体が喜ぶ食事……。
心の栄養になるようなものに出会ったとき、沖縄の人たちは思わず、
「ぬちぐすいやっさー」ともらす。
真っ青な空に映えるブーゲンビリアのオペラピンク。
草木のむこうに見える集落の赤い煉瓦屋根。
すれ違い際、物静かに目礼をする島の人々。
どこまでも透明度100%の海が続く遠浅のコンドイビーチ。
観光化されすぎているという人もいるけれど、それは昼間の姿。
夕方になって観光客が石垣島に帰っていくと、
この島は島民のための島に戻る。
西表島の方角を赤く染める夕陽が沈んだあとには満天の星空が広がって
そこを彗星のように星が流れていく。
自転車に乗れば半日足らずで一周できるくらいの小さな島なのに
竹富島は“ぬちぐすい”にあふれている。
バカンスではなく、ただ何かを“感じる”ための南の島。
だから、素の自分に出会ってしまう。
素の自分を愛おしく思えたら、次の恋はきっとうまくいく。
思わず「ぬちぐすいやっさー」ともらしてしまうような
そんな恋をして、
彼と二人、バカンスのために南に島へ行こう。
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