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   甘える男たち  - Essay - vol.4  …by千住沙良
   
   ■ ライオン男
 
「百獣の王」ライオンの雄は立派なたてがみを持っているが、実はその家庭を支えているのは雌。雄は、母ちゃんが狩りをして取ってくる獲物を、昼寝をしながら待っているだけ。でも、優秀な狩人を操縦する術には長けているのだ。

Tセンセイは、画壇に属さない孤高の画家。繊細な画風が好きで、よく個展に行っているうち、ギャラリーの人の紹介でご本人と知り合いになった。
芸術家に有りがちな気難しい人かと思いきや、意外に話好きで気があった。
妻子持ちで、芸術はストイックを自認、父親に近いお歳でもあり、こちらも色気抜きで一緒に飲みに行ったり、安心して失恋の愚痴をこぼせたりするのが楽しかった。

ところが、しばらくするとTセンセイの話が妙に所帯じみてきた。女房が子供の面倒を見ない、絵のことも分からないのに口出しをする等々、世間のオヤヂ連中と変わらないボヤキばかり。
奥さんは公務員で、生活費はすべて奥さん任せ、センセイはひたすら絵を描くだけの生活だという。
しかし、奥さんを個展に呼んだことも、絵を見せたこともないという。
センセイの別な顔が見え始めた気がした。

少々ウザったさを感じ始めたある日、お誘いの電話が留守電に入っていたので、センセイの自宅に電話をかけ直したところ、応対に出た奥さんの氷のような声。
「どちらさまですか?主人にどんなご用ですの?」
その時初めて、センセイが奥さんにナイショで私と会っていたことに気付いた。

その1週間後、待ち合わせにやってきたセンセイは、どこかオドオドしていた。
「今日はちょっと歩こう」とだけ言って、足を早めるセンセイの後をついていくと、いきなり私の耳元で「キミと二人だけになりたい」と囁いて、ズカズカ駐車場に入っていく。たまげて建物を見上げると、なんと!ラブホテルの看板!
「いや、あの、二人だけなら喫茶店でもなれます!喫茶店にしましょう!」
我ながら訳の分からない理屈で、とにかく私はその場から離れることに成功した。

喫茶店で、長い無言の後、センセイが口を開いた。
「君が可愛そうだったんだ。もうこの先、女としての幸せがないと思っているなら、そうじゃないことを僕が教えてあげたかったんだ。」
この言葉を聞いて、私の中のナニカがプチッとキレた。
「つまり、私は奥さんの代用品なワケですか?」
私がそう聞くと、急にセンセイはヘドモドして
「いや、君が家庭を壊すような人じゃないことは僕にもよく分かってるよ」
私のセンセイに対する尊敬の念は音をたてて崩れ落ちた。

雄ライオンが必要とするのは平穏なナワバリと、充分なお肉だけ。
もしも、雌にたてがみがあったら、もう雄は要らないのかもしれない。
こんなふうに考える私が、いまだに結婚できていないのも事実である。



 
【プロフィール】
千住沙良(せんじゅさら)
リライター。企業社内報などの編集の傍ら、ミニコミ制作も。
多数の失恋経験をもとに、男性分析のため、今回、エッセイに挑戦。
   
   
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